経営の数字・約5分
広告費はいくらまで?赤字を防ぐ予算とやめ時の計算ルール
公開・あさひ国際会計株式会社

先に結論
広告を始める前に、1件の受注に払える限界の金額を計算する必要があります。成果が出ないときのために、広告を止める撤退基準をあらかじめ決める手順を解説します。
広告を打って赤字にならないためには、顧客を1人獲得するために支払うことができる広告費の上限を、事前に論理的に算出しておく必要があります。感覚に頼って予算を決めるのではなく、自社の財務状況と顧客獲得プロセスに沿った計画を立てることが大切です。
1. 利益と手元の現金を区別して広告予算を考える
広告予算を組み立てる第一歩は、自社商品の「利益」を把握することです。売上高から仕入れ値や外注費などの直接経費(売上原価)を引いた額が「粗利益(売上総利益)」ですが、これは「手元に残る現金」そのものではありません。実際の入金・支払いのタイミング(資金繰り)は帳簿上の利益とは別です。広告予算を組む際は、原価以外に販売時の変動費(決済手数料や発送費など)も考慮します。さらに、家賃や人件費などの固定費、納税、融資の返済に必要な現金を確保し、手元の資金状況を見ながら算出することが不可欠です。
仮に金額をすべて税込とした計算例を見てみましょう。
- 商品の販売単価(税込):10万円
- 売上原価:4万円(粗利益:6万円)
- その他の変動費(手数料など):5,000円
- 広告費・固定費を差し引く前の1件あたりの残額:5万5,000円
この5万5,000円から固定費や納税・返済分、残すべき利益を除いた額が、広告費に割ける理論上の上限です。また、入金が2か月後で広告費の引き落としが翌月の場合はキャッシュアウトが先行するため、手元資金の状況をあらかじめ確認しておきます。
2. 成果指標と顧客獲得コストの正しい評価方法
広告を評価する際、CPA(顧客獲得単価)という指標を用います。これは問い合わせや資料請求など、設定した成果1件あたりの広告費です。ここで受注を基準に上限予算を計算しながら問い合わせ件数だけで広告を評価すると、受注にいたるまでの実際の費用を過小評価してしまいます。問い合わせがすべて受注につながるわけではないからです。
- 広告費総額:10万円
- 問い合わせ件数:10件(CPA:1万円)
- 受注件数:1件(受注率:10%)
- 受注1件あたりの広告費:10万円
CPAの「1万円」だけを見て評価すると赤字を招くため、「広告費 ÷ 新規受注件数」を算出し、問い合わせからの受注率も追う手順が欠かせません。
また、「LTV(顧客生涯価値)が高ければ中長期的に黒字化できる」と安易に断定するのも避けるべきです。2回目以降の購入でもリピートを促すための再購入促進費がかかるほか、解約・返品リスクや、利益の回収までに期間を要するリスクがあります。創業期は将来のLTVを過信せず、初回取引や短期で回収できる範囲で広告費を設計するのが堅実です。
3. 許容損失額と想定成果率から決める撤退基準
期待する成果が出ないときに広告を止める撤退基準をあらかじめ決めておきます。アクセスがあっても問い合わせがない場合、広告やWebページのデザインだけでなく、計測不備、対象顧客のズレ、検討期間(リードタイム)の長さなども確認する必要があります。そのため、停止基準は一律のアクセス数ではなく、自社の「許容損失額」と「想定される成果率」から設定します。
例えば、テストに許容できる損失額を5万円、クリック単価を200円(250クリック分)とします。想定される問い合わせ率を1%とした場合、250クリックでの問い合わせ件数の期待値は2.5件ですが、ゼロの場合もあります。もし5万円を消化した時点で問い合わせがゼロ、受注までの検討期間を置いても、受注1件あたりの広告費が上限を超える場合は、配信を停止して設定やページの要因を分析します。AIによる自動最適化は媒体や入札方式によって必要なデータ量や学習期間が異なるため、少額予算の初期段階では、最適化される前に予算を使い切る場合があります。配信を放置せず、決めた基準に達した時点で手動で停止・調整を判断します。
4. 媒体の特性に合わせた検証とテスト手順
広告運用は、一度に全額を投入せず、予算と期間を区切ってテストを行います。例えば、最初の検証用テスト予算を総額10万円、検証期間を4週間(約1か月)と仮定します。この場合、週あたりの予算を2万5,000円に分割して配信します。毎週、クリック数や問い合わせ数、受注数を集計してデータを検証することで、資金を一度に失うのを避けつつ改善を図れます。
どの媒体を選ぶかも重要です。検索広告優先を共通のセオリーとせず、以下の3要素を基に媒体を検討します。
- 検索需要:自社の商品がすでに検索されているか。需要がない場合はSNS広告などで認知を広げる方が適しています。
- クリック単価:競合が多く単価が高騰しているか。高すぎる場合は少額予算での検証が困難になります。
- 受注までの期間:検討期間が長い商材は、効果が出るまでに時間がかかります。
これらの要素をふまえ、自社の強みを活かせる最適な媒体を選択します。
5. 資金繰りを基にした税理士への相談
自社の財務状況から見て、どれだけの資金を広告テストに回せるかは、手元の資金繰り状況に依存します。数か月分の運転資金を確保した上で、余剰資金の範囲内で取り組むのが原則です。予算の設定やキャッシュアウトの影響に不安がある場合は、顧問税理士に相談することをお勧めします。税理士は安全な投資額を保証できるわけではありませんが、直近の試算表や資金繰り表を基に、納税時期や返済予定を踏まえた上で、当面の資金繰りを圧迫しない範囲での「許容支出額」を客観的にアドバイスしてくれます。資金繰り上の安全な枠内で、計画的に挑戦しましょう。
6. 今日やること
- 売上単価から売上原価を引き「粗利益」を求め、さらに他の変動費、固定費、納税・返済資金を考慮した広告予算の上限を計算する
- 許容できる損失額と想定成果率から、広告の停止基準(撤退ライン)を算出する
- 検索需要、クリック単価、受注期間を整理し、自社に適した媒体と、4週間で10万円といった具体的なテスト運用計画を書き出す