経営の数字・約5分
黒字倒産を防ぐ、毎月見る3つの基本の数字
公開・あさひ国際会計株式会社

先に結論
創業期に経営者が毎月確認するべき3つの基本指標を整理します。手元資金を維持し、適切な経営判断を下すための基準がわかります。
1. 会社生存の絶対条件となる「現預金残高」の動き
会社が倒産する直接の原因は、赤字を出すことではなく、支払いに必要な資金が手元から底を突くことです。利益が十分に発生していても、売掛金の回収が遅れたり、仕入の支払いが先行したりすることで、資金が枯渇して黒字倒産に至るケースは少なくありません。そのため、経営者が最も優先して確認するべき数字は現預金残高です。
創業1年目の会社は、毎月末の時点で自社のすべての預金口座の残高を集計し、総額がどのように推移しているかを追う手順を習慣化します。ただ残高を眺めるだけでなく、現在の残高が「自社が1か月に最低限支払わなければならない金額の何か月分にあたるか」を計算します。
手元の現預金残高を維持するための目安は以下の通りです。
- 固定費の最低3か月分、できれば6か月分に相当する現預金を常に確保する
- 売掛金の回収サイトを極力短くし、買掛金の支払サイトを長く設定する
- 突発的な支出が発生した際に、すぐに対応できる予備資金をプールしておく
現預金の推移が減少傾向にある場合は、原因を究明する必要があります。売上不足なのか、回収の遅れなのか、あるいは不要な支出があったのかを特定し、資金が尽きる前に早めの対策を講じる必要があります。
2. 事業の持続性を評価するための「売上」と「粗利」
現預金残高の次に確認するべき指標が、売上高と粗利(売上総利益)です。売上は事業の規模を示しますが、会社の生存と成長を支えるのは売上ではなく粗利です。
粗利とは、売上高から商品の仕入代金や外注費などの直接かかった原価を差し引いた金額を指します。たとえば、100万円の売上があっても、仕入に80万円かかっていれば粗利は20万円となり、粗利率は20%にとどまります。この粗利から、家賃や人件費などのすべての固定費を支払い、最終的な利益を残す必要があります。
毎月の集計では、売上額の増減だけでなく粗利率の推移に注目します。
- 原価の高騰によって粗利率が低下していないか確認する
- 安易な値引き販売によって粗利を削ってしまっていないか確認する
- 利益率の高いサービスと、低いサービスの種類を明確に切り分ける
粗利率が安定している事業は、売上の拡大がそのまま手元資金の増加につながります。しかし、粗利率が低い状態で売上だけを追い求めると、業務が増えても手元にお金が残らない悪循環に陥ります。毎月、自社の粗利額が固定費を十分に上回っているかを厳格に管理する手順が求められます。
3. 毎月自動的に出ていく「固定費」の無駄を徹底して省く
粗利の中から支払われる固定費は、売上の増減にかかわらず毎月一定の金額が発生する経費です。家賃、電気代や水道代、会計ソフトやチャットツールの月額サブスクリプション利用料、役員報酬や従業員の給与、借入金の返済利息などが該当します。
固定費の最大の特徴は、売上がゼロであっても毎月支払わなければならない点です。創業期に固定費を高く設定しすぎると、毎月の粗利目標が高くなり、経営の難易度が一気に上昇します。そのため、固定費は低く抑えることが基本原則です。
固定費の無駄を省くための手順は以下の通りです。
- 毎月のクレジットカード利用明細や銀行口座からの引き落とし履歴をすべて洗い出す
- 数か月間一度も使っていないソフトウェアや、重複しているクラウドサービスの契約を直ちに解約する
- 契約しているプランが現在の利用規模に適しているか、より安価なプランへ切り替えられないか検討する
創業当初は「あったら便利」という理由で多くのサービスを契約しがちですが、これらは静かに資金をすり減らしていきます。固定費を1万円削ることは、粗利率50%の会社において売上を2万円増やすことと同じ価値を持ちます。毎月、不要な固定費がないかを精査する習慣を身につけてください。
4. 3つの数字を組み合わせた資金繰り予測と経営判断
現預金残高、売上と粗利、固定費の3つの数字が揃うことで、初めて会社の未来の資金繰り予測が可能になります。これらを掛け合わせることで、単なる現状把握にとどまらず、次の経営判断へ活かせます。
経営判断を下すための具体的な手順を整理します。
- 自社の月々の平均的な固定費と、現在の平均的な粗利率を把握する
- 「現預金残高 ÷ 月間固定費」によって、売上がゼロになった場合の生存期間(ランウェイ)を毎月計算する
- 将来の売上減少を予測し、現預金が固定費の3か月分を下回りそうであれば、不要な経費削減や資金調達の手続きを速やかに開始する
もし手元の資金に余裕があり、現預金残高が固定費の6か月分を超えている状態であれば、新規の広告宣伝や機材の購入といった「攻めの投資」を検討する好機と判断できます。このように、感覚ではなく数字に基づいた判断を行うことで、過度なリスクを避けながら会社を堅実に成長させていけます。
毎月の試算表の作成や、資金繰り実績の集計について、自社だけで正確に行うことが難しい場合や、税務上の整合性を持たせたい場合は、毎月の帳簿チェックを担当する税理士に確認しながら、数値管理の体制を構築することをおすすめします。
5. 今日やること
- 今月末時点の会社の預金残高をすべて書き出し、現在の月額固定費の何か月分か計算する。
- 先月の売上高から仕入や外注費を引いて、実際の「粗利」と「粗利率」を計算する。
- 毎月口座から引き落とされている会費やサブスクツールを洗い出し、不要なものを解約する。