経営の数字・約5分
一社頼みの危険は、売上割合の数字で測る
公開・あさひ国際会計株式会社

先に結論
1つの取引先に売上を依存する危険性を数値で把握する方法を解説。失注時の影響を計算し、創業1年目の会社が取り組むべき顧客分散の具体策を提示します。
1. 創業期に売上の半分以上を1社に頼っていたら影響を点検しましょう
開業当初は、前職の勤務先や紹介から、特定の1社からの案件でスタートするケースがよくあります。安定して受注できることは創業期の支えになりますが、売上の大半を1社に頼り続ける状態は、長期的には不安定要因を抱え込みやすくなります。取引先側の都合で売上が急減、あるいは途絶えるリスクが常に存在するからです。
担当者が変わった途端に取引終了を提示されるような事態も想定されます。売上比率が高いほど交渉の主導権を相手に握られやすく、無理な値下げ要求を断りきれずに利益率が下がっていく悪循環に陥ることもあります。
- 取引先の事情変化に伴う売上減少
- 交渉力の差から生じる不利な値下げ要求
- 新しい顧客を開拓するリソースの枯渇
2. 電卓で5分!自社の依存度を計算する手順
自社が特定の取引先にどれほど依存しているかは、簡単な数式で明らかになります。通常の試算表だけでは取引先別の詳細な売上構成が分からない場合があるため、売上台帳や取引先別集計表、請求書の控えを確認するのが適切です。
特定の取引先が占める割合を「得意先別売上比率」と呼びます。例えば、直近3か月の総売上が300万円で、そのうち主要取引先であるA社向けの売上高が210万円の場合、210万円を300万円で割ると「0.7」になります。この数値に100を掛けてパーセント表示に換算すると、売上比率は70%です。
この売上比率が50%を超えている場合、それは1社依存のリスクが高まっているサインとしての一つの目安になります。この数値に一律の明確な危険基準としての根拠があるわけではありませんが、自社の安全性を点検するための指標として役立ちます。
- 売上台帳や取引先別集計表を用意する
- 主要な取引先の売上割合を電卓で計算する
- 得意先別売上比率から依存度を客観的に測る
3. もし明日その取引が終わったら現預金を維持できますか?
もし売上の大半を占める取引先から「来月以降の契約を縮小したい」と告げられた場合、自社の資金はどうなるでしょうか。その失注によって全社売上が即座にゼロになるとは限りません。失われるのは原則として当該取引先分ですが、残る売上だけでは家賃や役員報酬、社会保険料といった毎月の固定費を賄えない状況が予想されます。
ここで、売上減少による損益上の赤字と、実際の支払不能(資金ショート)を混同しないことが重要です。失注により損益が赤字になってもただちに支払不能になるわけではなく、実際の支払能力は、手元の現預金残高と、今後の実際の入出金時期によって決まります。
そのため、翌月の収支や固定費だけを見るのではなく、現預金残高に実際の入出金予定を加減する「資金繰りシミュレーション」を行い、手元資金がいつまで維持できるかを予測する必要があります。
具体的な手順は以下の通りです。
- 現預金残高の確認: 通帳などから現在の正確な現預金残高を確認します。
- 売掛金の入金予定の加算: 売掛金について、いつ、いくら入金されるかのスケジュールを整理し、現預金残高に加えます。
- 各種支出予定の減算: 固定費、仕入れや外注費に伴う買掛金の支払、各種税金の納付予定、さらに「借入金元本の返済額」を、実際の支払日に合わせて現預金から差し引きます。
- 正確な現預金残高を口座情報などから確認する
- 売掛金の回収予定日と金額を加算する
- 買掛金、固定費、税金、借入元本の支払日と金額を減算する
4. 既存の仕事を続けながら新しい顧客を増やす現実的な方法
依存状態からの改善を目指すために、すぐに今の取引先との関係を整理する必要はありません。現在の安定した売上を維持しながら、並行して2社目、3社目の新しい顧客を開拓する行動を起こします。
多忙な経営者であっても、週のスケジュールを調整すれば、営業活動の時間を確保できます。一つの目安として、週の全作業時間のうち「15%程度」を新規開拓に割り振るカレンダーを設定してみましょう。あらかじめ営業時間を確保しておくことで、無理なく行動を習慣化しやすくなります。
自社の強みをまとめた簡単な資料を準備し、問い合わせフォームや紹介を通じてアプローチします。継続して取り組むことで、徐々に反応や問い合わせを得られる可能性が高まります。新たな売上が加わり依存比率が下がっていけば、既存の1社に対する過度な心理的負担も軽減される傾向があります。
- 営業用の時間を確保し、他の作業を入れない
- 自社の強みをまとめた簡潔な資料を準備する
- 今の取引先との関係を維持しつつ新規開拓を行う
5. 創業期における段階的な新規営業開始の目安
設立して数か月が経過し、日常の業務フローや記帳、月次の資金管理に慣れてきた頃が、新規開拓を始める適当な時期と考えられます。業務の波や収支が予測できていれば、空いた時間を営業活動に回しやすくなります。
まずは自社と同じ規模の会社や同業の事業者を対象に、週に数件など無理のないペースで連絡を送ることから始めます。小規模な案件でも丁寧に対応し、品質の高さを示すことで、継続的な取引へとつなげられるチャンスが生まれます。
他社向けの売上の伸びが主要取引先向けを上回れば、その取引先への売上比率は下がります。将来的な目標の一例として、最も売上高が大きい取引先でも全体の比率を「30%以下」に抑える分散体制を目指すとよいでしょう。こうした収支予測や営業用の予算設定に不安がある場合は、早めに顧問税理士などの専門家に相談し、客観的なアドバイスを得ることも有益です。
- 契約期間と手元資金を確認し、少しずつ営業を始める
- 自社の規模に合い、アプローチしやすい対象から開始する
- 1社への売上比率を将来的に30%以下に抑えることを目指す
6. 今日やること
- 売上台帳や取引先別集計表を確認し、得意先別売上比率を電卓で計算してみましょう。
- 手元の「現預金残高」と今後の「売掛金の入金時期・金額」をリストアップしましょう。
- 固定費、買掛金、税金、借入元本の返済予定を書き出し、まず今後3か月の資金繰りを支払日順に確認しましょう。
- カレンダーに新規営業用の時間を少しでも確保してみましょう。