届出と保険・約6分
社長が入院、会社の契約は誰が進める?
公開・あさひ国際会計株式会社

先に結論
社長の入院中に契約を進めるには、代理人と任せる範囲の準備が必要です。契約の整理から委任状、取引先への確認まで順に進めます。
1. 家族や社員というだけでは、契約を任せられません
社長の入院に備えるなら、会社の契約を誰に、どこまで任せるかを元気なうちに決めておきます。家族や社員が事情を知っていても、それだけで会社を代表して契約できるとは限りません。会社の実印を預けるだけでも、任せた範囲は伝わりません。
従業員のいない会社では、配偶者に「何かあったら頼む」と伝えて終わってしまいがちです。しかし、取引先から契約を結ぶ権限の確認を求められると、その一言では手続きが止まります。連絡を取り次ぐ人と、契約を結ぶ人を分けて決めるところから始めてください。
設立後、継続取引が増え始めた時期に、次の役割を書き出します。一人に全部を任せる必要はありません。
- 取引先からの連絡を受け、期限を確認する人
- 見積書や契約案を整理し、社長に判断を求める人
- 定めた範囲で、会社の代理人として契約する人
税理士資格に基づく税務代理と、一般的な企業間契約の代理は別です。税理士が報酬を得て業として契約の代理や法律判断を伴う契約書の作成・審査を行うことは、弁護士法72条に抵触するおそれがあります。本人の了承や委任状でこの制限は解消されません。契約に関する法律相談は弁護士に依頼します。
2. まずは「入院中に期限が来る契約」を洗い出す
最初から全契約の委任状を作ると、何を任せたいのか曖昧になります。先に、今進んでいる商談と継続契約を並べ、返答を待てるものと、止めると仕事に影響するものを分けましょう。
確認するのは、新規の受注だけではありません。外注の発注、仕入れ、事務所の賃貸借、業務ソフトの更新にも期限があります。自動更新の契約なら、署名する日より解約や変更を申し出る期限の方が先に来る場合があります。
一覧には、契約書の保管場所に加えて、次の項目をそろえます。
- 相手先の担当者と連絡先
- 返答期限や更新日
- 未決定の条件と、止まった場合の影響
- 契約する人と、確認を頼む専門家
例えば、継続中の案件に必要な追加発注は任せ、新規事業の長期契約は延期する、と整理します。「急ぎだから」という理由だけで代理人に判断を押しつけないよう、待てる契約には先に延期の連絡を入れます。
3. 任せる範囲は、契約名と条件で絞る
代理人を決めたら、「会社の業務全般を任せる」という広い表現を避け、対象を具体的にします。委任状は、誰にどの権限を与えたかを相手に示すための書類です。作成前に、本人と任せる仕事をすり合わせてください。
契約する権限には、金額・期間・変更できる条件の境界を付けます。 社長が普段使っているひな形でも、損害賠償や解約の条件が書き換えられれば、会社が負う責任は変わります。金額だけを上限内に収めても、十分とは限りません。
委任する内容は、次のように具体化します。
- 対象は、指定した取引先との特定の契約に限定する
- 金額は、承認済みの見積書に記載した範囲に留める
- 契約期間や支払条件は、添付した契約案から変更しない
- 借入れ、保証、権利の譲渡は今回の委任から外す
- 別の人への委任は、社長への再確認なしに行わない
条件を外れる提案が出たときの扱いも決めます。連絡が取れれば社長に確認し、取れなければ返答を保留する、という運用です。保留した結果、納期に影響する場合の連絡文も用意しておくと、代理人が独断で条件を受け入れずに済みます。
4. 委任状を作る前に、相手の必要書類を聞く
社内で権限を決めても、相手先の確認が終わらなければ契約は進みません。主要な取引先には平時に「代表者が対応できない場合、代理人による契約には何が必要ですか」と聞いておきます。
相手先に専用の委任状があるなら、その様式を確認します。本人確認書類や会社の証明書が求められる場合もあるため、必要な書類、提出方法、原本の要否まで聞いてください。個人情報を含む書類は、求められる範囲を確認してから渡します。
準備する一式の候補は次のとおりです。
- 会社名、代表者名、代理人、対象契約、権限の範囲、有効期間を記載した委任状
- 承認済みの見積書と、署名対象の契約案
- 相手先から指定された本人確認書類や会社の証明書
- 契約後の控えと交渉経緯を保存する共有先
会社名だけを書いて、代理人が社長本人のように署名する進め方は避けます。署名欄で会社と代理人をどう表示するか、取引先に確認しましょう。
電子契約においても、社長のアカウントを共有して対応することは避けてください。利用サービスと取引先に、代理人宛ての送信や権限設定の方法を確認します。印鑑やログイン情報の管理と、契約を結ぶ権限の付与は、別々に準備します。
5. 社長に判断を求められない場合まで備える
入院しても内容を確認できるなら、代理人が資料を整理し、必要な承認を受ける流れを組めます。一方、意識がないなど意思確認が難しい状態では、その場で新しい委任状を作って解決することは困難です。
社長の判断が必要な契約を、判断できない間に誰が扱うかは、会社の役員構成や既存の権限によって変わります。別の取締役がいても、その人に会社の代表権があるとは限りません。一人で株主と代表取締役を兼ねている会社は、特に早めの整理が必要です。
契約上の委任については弁護士に、役員や代表者の変更と登記については司法書士に、会社の状況を示して相談します。
- 既存の委任で対応できる契約はどこまでか
- 代表者の変更などを検討する場合、どの手続きが必要か
- 判断できる人が不在の間、保留すべき行為は何か
退院後には締結済みの契約内容を確認し、残っている交渉を引き継ぎます。不要になった委任やサービスの権限は終了・解除し、関係する取引先にも担当が戻ったことを伝えます。
6. 今日やること
まず、進行中の契約を一つ選び、社長が明日から対応できない場合に止まる箇所を確認してください。その一件を使って、代理人と必要書類の準備を進めます。
- 返答や更新の期限が近い契約を一覧にする
- 連絡担当と代理人の候補に、任せたい範囲を伝える
- 主要な取引先に、代理契約の手順と必要書類を確認する