届出と保険・約8分
一人社長の社会保険と雇うときの労働保険
公開・あさひ国際会計株式会社

先に結論
法人の一人社長でも厚生年金・健康保険の加入対象になる流れと、従業員を雇ったときに必要になる労災・雇用保険の順を解説します。届出の目安期限も整理します。
1. 法人化したら社会保険の加入を先に確認する
株式会社・合同会社などの法人は、社長一人だけでも健康保険と厚生年金の適用事業所になる、というのが基本的な枠組みです(日本年金機構)。個人事業のころに国民健康保険・国民年金だった人も、法人の常勤役員として報酬を受けるなら、切替えの手続きが必要になるケースが大半です。
創業直後にやる順の目安です。
- 設立登記が終わったら:会社の書類(登記事項証明書、定款の写しなど)を揃える
- 年金事務所で:新規適用の届出と、社長自身の被保険者資格取得の届出を出す
- 報酬月額を決める:役員報酬の額に基づき標準報酬月額が決まる
- 保険料の納付:会社負担分と本人負担分をあわせて、納付の仕組みに乗る
届出の期限は、事実があってから「5日以内」など短いものが多く、設立後に他の手続きと重なって遅れやすいです。正確な添付書類と期限は、管轄の年金事務所または手続きを頼む社会保険労務士・税理士に確認してください。創業GO!の読者で税理士だけ先に決めた場合でも、社会保険の届出担当が誰かを一言決めておくと漏れが減ります。
2. 保険料のイメージと役員報酬の関係
健康保険料・厚生年金保険料は、標準報酬月額に保険料率をかけて計算し、会社と本人で折半する形が基本です。報酬を高くすると保険料も上がり、低くすると将来の年金額や傷病時の給付の土台にも影響します。
創業1年目の実務上の注意です。
- 役員報酬は、期の途中で頻繁に変えないのが原則の考え方(定期同額の考え方)
- 社会保険料は毎月のキャッシュアウトになるため、報酬額を決める前に手取りと会社負担の両方を試算する
- 賞与を出す場合は、別途届出と保険料の対象になることがある
「とりあえず低い報酬」にするかどうかは、生活費・法人税・社会保険料のバランスで決まります。税務だけの最適と、社会保険だけの最適は一致しないことがあるので、報酬案を出すときは税理士に社会保険料の概算もセットで見てもらってください。
3. 従業員を雇ったら労働保険(労災・雇用)
労働保険は、労災保険と雇用保険を総称する呼び方です。一人社長のみで、労働者がいない場合は、雇用保険の被保険者がいない、労災の「労働者」もいない、という整理になります。ただし社長自身の業務災害に備えたい場合は、特別加入など別の枠組みの検討になります(要件あり。労働局や専門家に確認)。
アルバイト・パートを含め「労働者」を1人でも雇うと、次が必要になります。
- 労災保険:労働者を一人でも雇えば適用の対象になる(事業の開始に伴う届出)
- 雇用保険:週の所定労働時間や雇用期間など、被保険者の要件を満たす人がいれば加入手続き
手続きの窓口のイメージです。
- 労働保険の保険関係成立の届出:労働基準監督署など
- 雇用保険の適用事業所設置・資格取得:ハローワーク
- 成立後の概算保険料の納付:労働局・銀行等での納付手続き
「週に少しだけ手伝ってもらう」場合でも、労働者性があれば労災の対象になり得ます。家族を手伝う形、業務委託と称した働き方でも、実態で判断されることがあるため、雇う前に契約の形と労働時間を整理してください。判断に迷うケースは、労働基準監督署や専門家に確認します。
4. 入社時・設立直後に揃える届出の順
従業員0→1人になるタイミングで、次の順にチェックリスト化します。
- 採用が決まったら:労働条件を書面(労働条件通知書・雇用契約書)で渡す
- 入社日が決まったら:社会保険の資格取得(要件を満たす勤務時間・日数の場合)、雇用保険の資格取得
- 賃金台帳・出勤記録(タイムカードや勤怠ツール)を付け始める
- 給与から、社会保険料・雇用保険料の本人負担、源泉所得税を天引きする
- 年度更新(労働保険の保険料の年一回の申告・精算)の時期をカレンダーに入れる
社会保険の加入要件(週の所定労働時間・月の勤務日数など)は、事業所の規模や法令の改正で境界が変わることがあります。最新の基準は日本年金機構の案内と、手続き担当者に確認してください。創業1年目は「週20時間ちょうど」「試用期間中」などの境界事例が出やすいので、口頭の約束だけで始めないことが大切です。
5. 一人社長のままでも忘れてはいけない点
従業員を雇わなくても、次は残ります。
- 健康保険・厚生年金の毎月の会社負担
- 役員報酬の源泉所得税の納付
- 会社の口座と個人の生活費の分け方(報酬の振込として記録する)
また、オフィスを借りる・仕事場を自宅以外に置くなどで「事業所」の扱いが変わるときは、社会保険の届出事項の変更が必要になることがあります。引越しや本店移転のときは、税務署・自治体・年金事務所の住所変更をまとめて洗い出してください。
手続きを税理士に全部任せているつもりでも、社会保険・労働保険は社労士の領域として分かれていることがあります。誰が何の届出の期限を持つか、設立後1か月以内に一覧にすると、後から「未加入のまま数か月経っていた」という状態を防げます。
6. 今日やること
- 登記完了日と役員報酬の予定額を書き、年金事務所の新規適用に必要な書類リストを入手する
- 今の体制が「一人社長のみ」か「労働者となる人(アルバイト含む)がいる」かを一文で定義する
- 雇う予定があるなら、入社日・週の労働時間・給与をメモし、労災・雇用・社会保険のどれが対象か専門家に確認する